もともと家具を含めた木工事を担当していた病院から、すでに工事期間に入っている段階で追加オーダーされた「受付カウンター」。オーダーの内容は、当社の前例にはない複雑なデザインの受付カウンターでした。今回は、工事管理担当の篠原と製作担当の井上、製作および取り付けを担当した太田、そして現場を指揮していた村上の4人から、受付カウンター製作のエピソードなどを語ってもらいました。


前例がないほど複雑なデザインの「受付カウンター」
そもそも、病院からはどういう依頼内容で受付カウンターのオーダーを受けたのでしょうか?
篠原:ご覧になっていただければ分かると思いますが、とにかく斬新なデザインの受付カウンターを作りたいということで……。病院側が作ったパースを見せていただいたときは、デザインが複雑すぎて驚きました。
斬新なデザインということで、依頼を受けるにあたって、何か不安なことはありませんでしたか?
篠原:正直、不安だらけでしたね(笑)。もともと、弊社は病室の棚や冷蔵庫置き場など、家具を含めた木工事全般の担当として現場に入っていたんですが、すでに工事がスタートしたタイミングでの依頼だったので、納期が通常の半分くらいしかありませんでした。
しかも、何よりデザインが複雑で……。パースを見せてもらったときは、見積もりなどもあるので、すぐに返事はせず、一旦、社内に持ち帰りました。

社内でパースを見たときの感想はどうでしたか?
太田:率直に、複雑な依頼を受けてきたなーという印象でした。
具体的にどのあたりが複雑でしたか?
太田: 200枚以上のルーバーをウエハース状に26段も重ねてレイアウトしているので、一般的な受付カウンターにはない斬新なデザインになっています。

200枚以上ってすごいですね。
太田:ルーバーの形が200枚すべて異なるので、それもデザインを複雑にさせている要因のひとつでしたね。
社内ではほかにどういう話し合いが行われましたか?
井上:サイズがサイズなだけに、工場で完成させたものをトラックに乗せて病院に運ぶことはできません。ですので、どこまで工場で作って、どこから現場で取り付けるのか検討しました。
実際は?
井上:土台となる骨組みはある程度、工場で組み上げましたが、200枚以上にもおよぶルーバーは、工場で加工をしてすべて現場で取り付けています。
作業終了後は達成感よりも不安でいっぱい……
工場で製作した部分についての苦悩はありますか?
太田:土台となる骨組みの部分を担当したんですが、複雑な形状のルーバーに対して製作をする必要がありました。少しでも角度がズレるとルーバーを取り付けられないので、最低限、図面通りに加工して現場にバトンタッチできるように、いつも以上に神経を使いましたね。
ルーバーはすべて形が異なるのですね……。
井上:はい。しかも、ルーバーの端の部分は切削中に欠けてしまうくらい薄いので、普段にも増して注意を払いましたね。

それだけ大変だと、工場での作業が終わったときは達成感でいっぱいだったのでは?
井上:達成感より不安の方が大きかったです。
なぜですか?
井上:工場で加工をして現場に持っていくとしても、通常であれば、工場で仮固定をしてから運びます。しかし、今回はそれができませんでした。現場で作業をする段階になっても、「ズレが生じていないか、ちゃんと組み立てられるか……」と数日間は不安でしたね。
ミリ単位の世界で奮闘した現場作業
それだけ思いが詰まった材料だと、現場でのプレッシャーは相当なものですね……。
村上:材料を現場に搬入する時点で苦労しました。
具体的にどういうことですか?
村上:さっき井上さんが言ったように、ルーバーは壁などにぶつけてしまうと欠けてしまうくらい繊細でした。ほかの工事も既に進んでいる段階だったので、絶対ぶつけられない状況で、なおかつ200枚以上も運ぶので、慎重かつスピーディーに運ばなければいけなくて……。

その後は順調に進められましたか?
村上:順調……ではなかったですね(笑)。1日目を終えた段階で、26段中2段目までしか組み立てられなかったんです。工期が1週間しかなかったので、このペースだと2週間は掛かってしまう。この時は、「本当に終わるのか?」とさすがに心配になりましたね。
2日目以降はどうでしたか?
村上:少しずつ要領をつかんできて、2日目以降は順調に進みました。
ホッとひと安心ですね。
村上:いやいや、組み上げる作業こそ順調でしたが、ミリ単位の世界なので、安心する暇なんてなかったですね。26段すべてを組み上げる際、それぞれでコンマ5ズレが生じていただけでも最後の1枚が収まらなくなるので、常に微調整が必要でした。
すべてが完成したときの感想はどうでしたか?
太田:現場では、骨組みとなる土台の取り付けを担当したんですが、日に日に積み重なっていく姿を見て感動しました。完成した時ばかりは素人のような感覚で、なんていうか……実物を見ることができて得した気分でした(笑)。
すべてのピースがハマって完成した成功への道標
お客さまの反応は?
篠原:直接はお聞きしていませんが、「素晴らしいものを作ってくれた」と高評価をいただいたとお聞きしています。
その要因はズバリ?
篠原:作業に入る前段階で工場と現場での作業を的確に線引きできたのは大きいですね。今回の計画以上でも以下でも、ロスが生じていたと思います。
ほかに何かありますか?
篠原:1ヶ月という短い期間の中で、それぞれが責任を持って作業に取り組めたのも、成功の秘訣だと思います。正直、作業開始当初から終わらないとは思っていませんでした。
どういうことですか?
篠原:弊社にとって前例のないオーダーということもあり、厳しい作業が予想されたのは確かです。しかし、工場も現場も、最終的にはそれぞれの担当がなんとかしてくれると信じていましたから……。